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- 第一回 石橋湛山新人賞受賞、伊藤真利子さんインタビュー(3)
- March.01.2021PRINT THIS PAGE
Part 3. 総合文化政策学研究科に入って――伊藤真利子×杉浦勢之
杉浦:話は変わりますが、せっかくの機会なので、総合文化政策学研究科の大学院生活はどうですか。
伊藤:至れり尽くせりの贅沢なカリキュラムを、第一人者でおられる先生方にご指導頂いて、まるで夢のようです。しかもACLを通じて、文字通り多種多彩かつ多才な方々と出逢える機会があって、この広がり方は、大学院じゃないみたい!というのもありますね(笑)。わくわくするような新しいものだらけの中、部屋に籠もって黙々と専門分野の研究をしているだけでは済みません。ただ、自分が若干浮足立っている感はあるので、大きな流れを見失わず、小さなことを疎かにせず、研究者としての緊張感をもってやっていきたいなと思っています。
杉浦:普段出会えない人達と接触することで、書物では学べないことを学ぶというのがあって、それで初めて腑に落ちることがありますね。でもそこまでたどりつくと、実はまた分らないことがどんどん出てくるはずなんですよ。そこからまた勉強が始まる。自分に限界があることを意識すればするほど、出会いから刺激を受けられます。だから自分の今ある限界に目を背けず、きちんと向き合うということがいちばん大事なことでしょうね。
トップ・ヒヤリングすると分かることですが、トップにしか見えない部分があって、またトップであるが故に見えない部分がある。そういう方が他者の目を通じて自分をきちんと客観視したいと、誠実にインタビューを受けて下さるというのは、それはそういうことをちゃんと意識され、自戒されているからです。立場の持つ怖さをよく知っている。ガバナンスに入った途端、周囲から「声」が聞こえてこなくなるんですよ。一瞬世界がしーんと静まりかえるというか、『オセロ』のイアーゴみたいなノイズであれば、いくらでも入ってくるだろうけど(笑)。放っておくと、本当に聞くべき「声」が不思議なくらいあっという間に入ってこなくなる。だからこそ優れたトップほど、謙虚に話をされますし、また率直に話を聞いてくださりもしますよね。
伊藤:トップの器以上に企業は大きくならない、器を大きくするためには、様々な視角をもった助言者が必要になると伺ったことがあります。自分のような新参者が……と恐縮ばかりですが、それでも温かく迎え入れてくださいます。自分より何段も高い識見の方の肩に乗せていただき、物事を見させていただいているという感じです。
杉浦:そういったかたちで、経営史、経営文化論という分野は、論文以外に得られるものがたくさんあるのではないかなと思います。確かな人の手ごたえに共感し、その限界も理解することで論文が書ける。そして今回そのことを評価していただいたということになりますね。
伊藤:そうだとしたら、大変有難いです。
杉浦:ところで、大変ベタな質問になってしまうのだけど、そもそもどうして総合文化政策学研究科を選んだのですか?
伊藤:総合文化政策学部っておもしろそうだなというか……やっぱり学部、研究科のコンセプトに惚れ込んだのじゃないかなと思うのですけど。割と惚れ込みやすいほうかもしれないです(笑)。……あっ、もちろん杉浦先生に惚れ込んだというのもあるわけですが(笑)。
杉浦:いま完全にフォロー忘れてたでしょう(笑)。
それにしても、人が好きで、書くことによってアプローチしていくというのは……。
伊藤:時間がかかるアプローチですよね。人の良い部分をみつけると、すぐに惚れちゃうんですよ。それで、人知れず、熱をあげてしまいます(笑)。
杉浦:いや批判するほうが簡単だから。相手の欠点を見つけるだけなら、それほど才能も時間も要しないですよ。ちょっと気のきいた文章を書ければいいわけで。ただそれでは自分の力をつけることに全然ならない。小器用になる必要は全然ないですよ。力負けを恐れず、客観性を見失うことなく、相手のいいところと一度はきちんと向き合うという、そういう姿勢が今回評価されたわけで、そういった意味でも少し時代のほうが変わって来たなという印象を持ちました。本人は大変でしょうけど(笑)。
最後に、これまで聞いたことなかったんですが、伊藤さんの趣味って何ですか?
伊藤:趣味は大学院に入ってから封印しましたので……。
杉浦:あ、封印しちゃったんだ、でも何かあるでしょう?
伊藤:あまり人様に言えない趣味ですけど、強いて言えば、人間ウォッチングでしょうか(笑)。
杉浦:ひたすら見る、と(笑)。最近はいろんな企業のトップ・ヒヤリングもかなり頻繁にしているみたいですね。
伊藤:はい。トップの方だけ、というわけではないですが、本当に素晴らしい方々のお話を聞かせていただいてます。おかげさまで、日に日に目が肥えていってますね(笑)。
杉浦:喜ばしいというべきか、今内心ひそかにギクッとしました(笑)。人間ウォッチングという趣味は、確実に研究に活かされているということですね。
伊藤:そうかもしれません(笑)。
杉浦:損得のないところ、つたなさと若さのぎりぎりの感覚が伊藤さんのおもしろいところですね。これからも惚れこめるものにいろいろ出逢って、いい研究をどんどん世に問うていってください。
伊藤:ありがとうございます。
(2009/06/16 18:30~20:30 @間島記念館)